ドキュメンタリー作品の製作のためにネッケル病院の神経内科を訪れたニルス・タヴェルニエ監督は、そこで重度の障がいを抱えた子供たちと出会う。生きるエネルギーを信じられないほど輝かせ、周囲や家族をも照らしている彼らの姿に感動したタヴェルニエ監督は、車いすの青年を主人公にした物語を作ろうと決意する。その時のことを監督は「彼らを見ると、最初は自分たちとの違いを感じたけれど、たちまちそのパワーに圧倒された。だから希望に溢れる映画を作りたかった」と語る。
タヴェルニエ監督は書き上げた草稿を、プロデューサーのフィリップ・ボエファールに持ちこんだ。ボエファールは人間味溢れるストーリーを気に入り、障がいだけをテーマにするのではなく、主人公のジュリアンを両親に反抗する青年として描き、軽快さと普遍性を持たせるようアドバイスする。
タヴェルニエ監督は最初から、主人公のジュリアン役には、実際に障がいを持つ青年を起用すると決めていた。監督は5カ月をかけてフランスをくまなく駆けまわり、170の施設を訪問し、ジュリアン役にふさわしい“喜びに満ちた元気いっぱいの若者”を探した。最終的な決め手は、送ってくれるよう依頼していた動画だった。車いすに乗りながらバカげたことを言って、和らいだ微笑みを浮かべているファビアン・エローを見たタヴェルニエ監督は、「彼は確かな輝きを放っていた」と振り返る。ファビアンに自然なカリスマ性を感じたボエファールも、「脚本の中の“物語”が、“現実”になった。彼がいてこそ、我々は正しい方向へと進むことができた」と語る。
ファビアンは、妊娠6か月で超未熟児として生まれ、脳神経障がいをもった。現在は、障がい者にも理解の深い普通高校の工学科に通い、自動車免許を取ったり、会社を立ち上げたりと、積極的に日々を謳歌している。
ジャック・ガンブランは、タヴェルニエ監督が考えていた父ポールの体型と年齢にぴったりだった。ガンブランは、スポーツによって再結束した父と息子の本を書いていた。それは自身と父親についての物語だ。タヴェルニエ監督はオファーした後にそれを知り、運命を感じたと言う。ガンブランも、「僕自身、運動を通じて自分の父親と"出会えた"経験があったから、個人的にもこの物語にとても共鳴している」と語る。一方、母クレール役のアレクサンドラ・ラミーは、障がいのある子供を持つ家族の姿を追った「Envoyé Spécial」というドキュメンタリー番組を製作していた。製作スタッフは、俳優としてだけでなく、人柄も役にぴったりのキャストを探しあてたのだ。
ジュリアンとその家族が暮らす舞台には、フランスのアヌシー地方が選ばれた。背景のアルプスの山々が息をのむほど美しく、清澄な空気に包まれた緑豊かな場所だ。スポーツが盛んで、そのための環境が充実していることでも有名な地域だ。
アイアンマンレースのスタートシーンは、南フランスのニースで実際に行われたレースで撮影された。スタッフとキャストは、朝6時に2700名の猛特訓したアスリートたちに囲まれ、素晴らしい一日を過ごした。彼らが極限まで行こうと努力する様子が、皆の脳裏に焼き付いた。 3.8キロの遠泳を終えた全アスリートが水から上がるのを見るのは、目が覚めるような瞬間だった。